病院・福祉施設の自家ランドリー導入ガイド|感染対策とコスト削減を両立する方法

病院や福祉施設で外部委託しているリネン管理費用が、年々増加していませんか?感染症対策への要求が高まる中、「外部業者に任せきりで本当に安全なのか」という不安を抱えている施設管理者の方も多いはずです。
医療・福祉現場では、血液や体液で汚染されたリネンの取り扱いが日常的に発生します。外部委託では処理工程が見えないため、感染管理の徹底度を確認できないジレンマがあります。さらに、委託費は固定費として経営を圧迫し続けます。
実は、自家ランドリーシステムを導入し,感染対策が可能な業務用洗濯設備を導入した病院では、3年間で洗濯関連コストを平均23%削減しながら、院内感染リスクを低減させた事例が複数報告されています。初期投資の懸念はあるものの、適切な設備選定と運用計画により、投資回収と感染対策の両立が可能になるのです。
この記事のポイント
- 医療・福祉施設における自家ランドリーの感染対策上の優位性
- 外部委託との詳細なコスト比較と投資回収シミュレーション
- 施設規模別の最適な洗濯機選定ガイド
- 血液汚れ・感染性リネンの適切な処理方法
- 導入後の運用体制構築のステップ
医療・福祉施設のリネン管理における課題

見えない感染リスクと管理の難しさ
外部委託では、汚染リネンが施設外に運ばれてから洗浄されるまでのプロセスが把握できません。輸送中の二次汚染リスクや、複数施設のリネンが同じ工場で処理される際の交差汚染の可能性は、感染管理上の大きな懸念材料です。
厚生労働省の「医療機関等における洗濯物の処理基準」では、血液等が付着したリネンの適切な処理が求められています。しかし外部委託では、この基準への準拠状況を直接確認することが困難です。
増大する委託費用の負担
医療・福祉施設の外部委託費は、感染対策の厳格化に伴い上昇傾向にあります。ある200床規模の病院では、年間リネン委託費が2,400万円に達し、これが運営コストの約4%を占めるケースも報告されています。
繁忙期の追加発注や緊急対応には割増料金が発生するケースもあり、予算管理を複雑化させます。また、契約更新時の値上げ交渉では、その特殊性から代替業者の選択肢が限られるため、施設側の交渉力が弱い状況が続いています。
供給の不安定性がもたらすリスク
感染症の流行期には、リネン需要が急増します。しかし外部委託では供給量の調整が困難で、必要な時に必要な枚数が確保できない事態が発生します。2020年以降のコロナ禍では複数の医療機関でリネン不足が報告され、患者ケアの質に影響を与えました。
自家ランドリー導入による感染対策の強化

院内完結による感染管理の徹底
院内の自家ランドリーでは、汚染リネンの発生から洗浄、保管まで全工程を施設内で管理できます。これにより、感染性リネンの取り扱い手順を自社基準で徹底でき、スタッフ教育も一貫して実施可能です。
血液や体液で汚染されたリネンは、専用の前処理エリアで適切に処理できます。洗浄温度や時間、使用する消毒剤の種類まで、感染管理部門の監督下で最適化できる点が最大の強みです。
洗浄プロセスの可視化と品質保証
自家処理では、洗濯機の温度記録や洗剤投入量のデータを蓄積できます。これらの記録は、感染対策委員会への報告資料として活用でき、透明性の高い感染管理を実現します。
ある総合病院では、自家ランドリー導入後、リネン由来の院内感染事例がゼロになったと報告しています。洗浄工程の標準化と記録管理が、この成果を支えています。
緊急時の迅速な対応力
感染症のアウトブレイク時には、汚染リネンの処理量が通常の3倍以上に増加する場合があります。自家ランドリーシステムでは、稼働時間の延長や処理優先度の変更により、柔軟に対応できます。
外部委託では対応まで数日かかる緊急洗浄も、自社設備なら即日処理が可能です。この迅速性が、感染拡大防止に決定的な差を生み出します。
コスト削減効果の具体的シミュレーション

200床規模の病院における比較分析
外部委託の場合(年間コスト)
| 項目 | 金額 |
| 基本委託費 | 1,800万円 |
| 緊急対応・追加発注 | 360万円 |
| 配送・回収費用 | 240万円 |
| 年間合計 | 2,400万円 |
自家ランドリーの場合(初期投資+年間コスト)
| 項目 | 金額 |
| 設備導入費(初期) | 2.000万円 |
| 人件費(年間) | 1,080万円 |
| 光熱水費(年間) | 480万円 |
| 消耗品・保守点検(年間) | 360万円 |
| 年間運営費合計 | 1,920万円 |
この事例では、年間480万円のコスト削減が実現します。初期投資1.000万円は、約4.5年で回収可能です。ただし、設備の耐用年数は15〜20年であるため、長期的には更に大きな経済効果が期待できます。
福祉施設(100床規模)のケーススタディ
特別養護老人ホームでは、失禁対応などで洗濯物の発生量が病院より多い傾向があります。外部委託費が年間1,200万円に達する施設で、自家ランドリーへ切り替えた結果、年間運営費を720万円に抑えることに成功しました。
初期投資1.000万円は2.5年で回収され、その後は年間480万円の経費削減効果が継続します。介護保険制度下での厳しい経営環境において、この削減効果は経営安定化に大きく寄与します。
投資回収を早める要因
設備の稼働率向上が鍵となります。夜間や休日の効率的な運用により、処理能力を最大限に活用できれば、他施設からの受託洗濯で副収入を得られます。ある病院では、近隣クリニックのリネン処理を受託し、年間300万円の追加収益を確保しています。
医療・福祉施設向け業務用洗濯機の選び方

感染対策に適した機種の条件
医療・福祉施設で使用する洗濯機には、以下の機能が必須です。
高温洗浄機能
感染性リネンの処理には、80℃で10分以上の高温洗浄が法律により義務とされます。熱水消毒により、一般的な病原体を効果的に不活化できます。
独立した給水・排水システム
汚染水の逆流を防ぐ構造が重要です。排水トラップの適切な設計により、下水からの感染リスクを最小化します。
プログラマブル制御
リネンの種類や汚染度に応じた洗浄プログラムを設定できる機種が理想的です。標準化された洗浄手順により、品質の均一化を図れます。
施設規模別の推奨メーカーと機種
大規模病院(200床以上)向け
1位: 山本製作所
医療施設向けの大型洗濯機で高いシェアを持ちます。耐久性に優れ、「永久に使える洗濯機」と評される品質が特徴です。高温洗浄機能を標準装備し、感染管理部門からの信頼も厚い製品です。
価格帯は1台あたり200万円〜1,000万円ですが、15年以上の長期使用を前提とすれば、年間コストは妥当な範囲に収まります。
2位: TOSEI
業務用洗濯乾燥機の国内シェアNo.1メーカーです。洗浄から乾燥まで一貫処理できるため、省スペースでの導入が可能です。3年保証が標準で、メンテナンス体制も充実しています。
中小規模施設(100床未満)向け
1位: アサヒ製作所
最大22kgまで処理可能な全自動洗濯脱水機が主力製品です。中小規模施設に適したサイズでありながら、医療用リネンの処理に必要な機能を網羅しています。
2位: 稲本製作所(アイナックス稲本)
100年以上の歴史を持つ老舗メーカーで、福祉施設への導入実績が豊富です。施設ごとの細かいニーズに応じたカスタマイズ対応が可能で、導入後のメンテナンスサポートも手厚いことで知られています。
プラント設計から保守まで一貫したサービスを提供するため、初めて自家ランドリーを導入する施設でも安心です。
選定時の重要チェックポイント
| 確認項目 | 重要度 | 確認内容 |
| 高温洗浄対応 | 必須 | 80℃で10分以上の洗浄が可能か |
| 処理能力 | 必須 | 1日の必要処理量に対応できるか |
| 省エネ性能 | 高 | 光熱費が長期的なコスト要因 |
| メンテナンス体制 | 高 | 緊急時の対応時間・費用 |
| 設置スペース | 中 | 既存施設への導入可否 |
血液汚れ・感染性リネンの適切な処理手順
前処理エリアの設計と運用
感染性リネンは、一般リネンと明確に分離して処理する必要があります。前処理専用エリアには、以下の設備が推奨されます。
専用シンク
血液汚れの予備洗浄用に、飛散防止構造を持つシンクを設置します。排水は直接下水へ流し、他のリネンへの交差汚染を防ぎます。
色分けされた回収カート
感染性リネン用は赤色、一般リネン用は青色など、視覚的に区別できるシステムが有効です。スタッフの取り扱いミスを防止し、安全性を向上させます。
洗浄プログラムの設定基準
血液汚れの場合
冷水または40℃以下の温水で予備洗浄を行います。高温水を最初から使用すると、血液中のタンパク質が凝固し、汚れが落ちにくくなるためです。
予備洗浄後、80℃以上の高温洗浄で10分以上処理します。これにより、血液由来の病原体を不活化できます。
感染性リネン(MRSA・C型肝炎など)
塩素系消毒剤を併用した洗浄プログラムを実施します。次亜塩素酸ナトリウム濃度0.1%で30分間の浸漬処理後、通常洗浄を行う方式が推奨されます。
ある大学病院では、この手順により、リネンからの病原体検出率を99.9%以上削減しました。
スタッフの安全確保と教育
感染性リネンを扱うスタッフには、適切な個人防護具の着用が必須です。手袋、ガウン、マスク、ゴーグルの4点セットを標準装備とします。
年2回の感染対策研修を実施し、最新のガイドラインへの対応を徹底します。実際の洗浄工程を見学しながらのOJTが、知識の定着に効果的です。
導入プロセスとスケジュール
準備期間(検討開始から6ヶ月前まで)
ステップ1: 現状分析
現在の外部委託費用を詳細に分析します。月別の変動、リネン種類別のコスト、配送頻度などを数値化し、自家処理との比較基礎データを作成します。
ステップ2: 設置場所の選定
給排水設備、電気容量、換気システムの既存状況を確認します。医療・福祉施設では、患者エリアから離れた場所で、かつ搬送動線が効率的な位置が理想的です。
ステップ3: 業者選定と見積取得
複数メーカーから提案を受け、設備費用だけでなく、ランニングコストや保守契約内容まで含めた総合比較を行います。
導入期間(6ヶ月前〜稼働開始)
施工期間
一般的に、設備導入から試運転まで3〜4ヶ月を要します。既存施設への導入では、給排水配管工事や電気設備増強が必要になる場合があります。
スタッフ研修
稼働開始1ヶ月前から、操作研修と感染管理研修を実施します。外部委託から切り替える場合、既存スタッフの不安を解消するため、十分な準備期間を設けることが重要です。
試運転・試用期間(稼働開始〜3ヶ月)
段階的に処理量を増やしていきます。最初は外部委託と並行運用し、品質や処理能力を確認しながら、徐々に自家処理の比率を高めていく方法が安全です。
この期間中に発生した課題を記録し、洗浄プログラムや運用手順の微調整を行います。3ヶ月後には、完全な自家処理体制への移行を目指します。
運用体制の構築とスタッフ配置
必要人員の算出方法
200床規模の病院では、1日あたり約600kgのリネンが発生します。この量を処理するには、以下の人員配置が標準的です。
| 役割 | 人数 | 勤務時間 |
| 洗濯・乾燥担当 | 2名 | 8:00-17:00 |
| 仕上げ・たたみ担当 | 2名 | 8:00-17:00 |
| 管理・品質チェック | 1名 | 8:00-17:00 |
繁忙期や感染症流行時には、パートタイム職員を追加することで柔軟に対応できます。
品質管理システムの確立
定期的な洗浄効果の検証が必要です。月1回、微生物検査を実施し、洗浄後のリネンから病原体が検出されないことを確認します。
水質検査も重要です。給水の硬度が高い地域では、スケール付着により洗浄効果が低下します。定期的な水質チェックと、必要に応じた軟水装置の導入を検討します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自家ランドリー導入の初期費用はどれくらいですか?
施設規模により異なりますが、100床規模の施設で600万円〜800万円、200床規模で1,000万円〜2,000万円が目安です。既存設備の活用や段階的導入により、初期投資を抑える方法もあります。
Q2. 外部委託と比べて感染管理は本当に向上しますか?
洗浄工程を自社管理できるため、感染管理の徹底度は確実に向上します。実際に、自家ランドリー導入後、リネン由来の院内感染がゼロになった医療機関も複数報告されています。
Q3. スタッフの確保が難しい場合はどうすればよいですか?
最新の全自動洗濯機は操作が簡素化されており、専門知識がなくても扱えます。また、パートタイム職員の活用や、夜間自動運転の設定により、少人数での運用も可能です。
Q4. 設備の故障時はどう対応すればよいですか?
専門業者の保守契約に加入することで、緊急時の迅速な対応が可能です。また、予備機を1台確保しておくことで、故障時も業務継続できる体制を構築できます。
大容量の機械を1台設置するより、分散型として数台機械を設置することでリスクの回避が可能になります
Q5. 導入後の運用コストは本当に削減できますか?
適切な設備選定と運用管理により、外部委託費の20〜30%削減が一般的です。ただし、光熱費や人件費の変動を考慮した、長期的な視点での評価が重要です。
まとめ|感染対策と経営効率化を両立する新しい選択
医療・福祉施設における自家ランドリーの導入は、感染管理の徹底とコスト削減を同時に実現する有効な選択肢です。外部委託では見えなかった洗浄プロセスを可視化し、施設独自の基準で品質管理できる点が最大の強みです。
初期投資の回収には10年程度を要しますが、設備の耐用年数を考慮すれば、長期的には大きな経済効果が期待できます。さらに、感染症のアウトブレイク時の迅速対応や、リネン供給の安定性向上など、金銭では測れない価値も生み出します。
施設の規模や予算に応じた柔軟な導入計画が可能です。まずは現状のリネン管理コストを詳細に分析し、自家ランドリーとの比較検討から始めてみてはいかがでしょうか。感染対策と経営効率化を両立する、新しいリネン管理の形がここにあります。

