クリーンルーム用ユニフォームの洗濯を内製化|製薬工場の衛生基準をクリアする方法

食品・製薬工場でクリーンルーム用ユニフォームの洗濯管理に悩んでいませんか?外部委託では衛生基準の徹底が不安、かといって内製化の具体的な方法がわからない -そんなジレンマを抱えている品質管理担当者の方は少なくありません。

食品・医薬品製造における無塵衣の洗浄は、製品品質に直結する重要な工程です。わずかな異物混入や微生物汚染が、製造ライン全体を停止させるリスクを生みます。特にGMP基準を遵守する必要がある製薬業界では、洗濯プロセスの透明性と管理の徹底が不可欠です。

実際に内製化を実現した工場では、品質管理の精度向上に加え、3年間で外部委託費を35%削減した事例も報告されています。洗浄から保管まで一貫した管理体制を構築することで、トレーサビリティが確保され、監査対応も容易になります。

この記事では、製薬工場がクリーンルーム用ユニフォームの洗濯内製化を成功させるための具体的な手順と、衛生基準をクリアするための実践的なノウハウを解説します。

この記事のポイント

  • 食品・製薬工場に求められる洗濯の衛生基準と法規制
  • 内製化に必要な設備選定と施設要件
  • GMP対応の洗浄バリデーション手順
  • 微生物管理と品質保証の実務ポイント
  • 運用マニュアル作成とコスト試算

製薬工場における作業着洗濯の課題と規制要件

製薬業界では、作業着の衛生管理が製品品質を左右します。医薬品GMPガイドラインでは、製造区域で使用する衣服の適切な洗濯と保管が義務付けられています。

外部委託に潜むリスク要因

専門業者に依頼する場合でも、洗濯プロセスの可視化が困難な場合があります。他社の製品と混洗されるリスクや、輸送中の汚染可能性が懸念材料となります。ある製薬会社の調査では、外部委託先での交差汚染リスクを完全に排除できないケースが3件確認されました。

トレーサビリティの確保も課題です。「いつ、どの衣服が、どのような条件で洗浄されたか」を記録する仕組みが不十分だと、監査時の説明責任を果たせません。特にクラス10,000以上のクリーンルームでは、洗浄履歴の文書化が求められます。

クリーンルームグレード別の衛生要件

クリーンルームクラス求められる清浄度洗浄後の要求基準
クラス100(ISO 5)1立方フィート内の0.5μm粒子数100個以下発塵量10個/着以下、無菌性確認必須
クラス10,000(ISO 7)同10,000個以下発塵量100個/着以下、微生物試験実施
クラス100,000(ISO 8)同100,000個以下一般的な清浄度管理

無塵衣の繊維構造は通常の作業着と異なります。ポリエステル長繊維やカーボン導電糸を使用した特殊素材は、不適切な洗濯方法で性能が劣化します。静電気除去機能の低下や繊維の毛羽立ちが、発塵量増加の原因となるのです。

医薬品医療機器等法では「製造所の構造設備」として洗濯施設の基準を定めています。区域区分の明確化、交差汚染防止措置、洗浄水の水質管理などが具体的な要求事項です。これらを満たさない場合、製造許可の更新に影響する可能性があります。


クリーンルーム対応洗濯機の選定基準

内製化の成否は設備選定で決まります。製薬工場向けの業務用洗濯機には、一般的な産業用機器とは異なる特殊要件があります。

必須機能と技術仕様

洗浄プログラムの多段階設定が重要です。予洗い、本洗い、すすぎ各工程で温度・時間・洗剤濃度を個別制御できる機種を選択します。特に80℃以上での熱水洗浄機能は、微生物低減に不可欠です。

純水仕様への対応も確認項目です。最終すすぎに超純水を使用する場合、配管材質が316Lステンレス以上であることが望まれます。TOC(全有機炭素)管理が必要なケースでは、給水系統の材質証明書を取得します。

バリデーション対応機能として、以下の要素を備えた機種が推奨されます。

洗濯機に求められる記録・管理機能

  • 運転パラメータの自動記録(温度、時間、水量、洗剤投入量)
  • ロット番号との紐付け管理システム
  • 異常発生時のアラート機能と停止機構
  • データエクスポート機能(CSV形式など)
  • アクセス権限管理(操作者の識別)

国内主要メーカーの特徴比較

山本製作所は製薬・医療分野向けに特化した洗浄プログラムを提供しています。FDA基準に準拠した温度管理機能と、21 CFR Part 11対応の記録システムが特徴です。耐久性が高く、連続運転にも対応できる設計となっています。

TOSEIの業務用洗濯乾燥機は、省スペース設計でありながら25kgまで対応可能です。標準で3年保証が付帯し、メンテナンスコストを抑えられる点が評価されています。独自の制御システムにより、洗浄条件の微調整が容易です。

アイナックス稲本は、プラント設計から納入後サポートまで一貫対応する強みがあります。クリーンルーム対応の洗濯設備導入実績が豊富で、製薬業界のノウハウを蓄積しています。カスタマイズ対応力が高く、既存施設への組み込みも可能です。

容量別の推奨機種選定目安

工場規模1日あたり洗濯量推奨洗濯機容量必要台数
小規模(従業員50名以下)50kg以下18〜22kg1〜2台
中規模(従業員100名程度)100〜150kg22〜30kg2〜3台
大規模(従業員200名以上)200kg以上30kg以上4台以上

初期投資を抑えたい場合は、中型機を複数台導入する方式が現実的です。1台あたり300〜500万円の機種を選択し、段階的に拡張する計画を立てます。大型のバリア型洗濯機は1.000万円を超える場合もあり、投資回収期間が長期化します。


洗濯施設の設計と区域区分の実務

製薬工場における洗濯施設は、交差汚染防止を最優先に設計します。GMPで求められる区域管理の原則を、洗濯プロセス全体に適用する必要があります。

ゾーニングと動線計画

汚染区域から清浄区域への一方通行動線が基本です。使用済み衣服の受け入れエリア、洗濯処理エリア、乾燥・保管エリアを物理的に分離します。壁やパーティションで区切り、人や物の移動を制限する構造が理想的です。

パススルー方式の採用で、交差汚染リスクを大幅に低減できます。洗濯機を壁に埋め込み、汚染側から投入、清浄側から取り出す設計です。作業者が区域を横断する必要がなくなり、動線管理が簡素化されます。

差圧管理も重要な要素です。清浄区域を陽圧に保ち、汚染区域からの空気流入を防ぎます。HEPAフィルター付き空調システムの設置により、浮遊微粒子を制御します。

区域別の環境管理基準

区域清浄度クラス差圧温湿度照度
汚染区域(受入・仕分)管理外負圧常温300ルクス
洗濯処理区域ISO 8相当基準20〜25℃500ルクス
乾燥・検査区域ISO 7相当陽圧+5Pa20〜25℃、湿度50%以下750ルクス
清浄品保管区域ISO 6相当陽圧+10Pa20〜25℃、湿度50%以下500ルクス

給排水設備と水質管理

洗浄用水の水質基準設定が第一歩です。予洗いには一般工業用水を使用できますが、最終すすぎには純水または超純水を用います。製薬用水基準(JP水)に準拠した場合、導電率1.3μS/cm以下、TOC値500ppb以下が目安となります。

純水製造装置の選定では、1日の使用量から逆算します。洗濯機1回のすすぎで100〜150リットル消費する場合、余裕を持って時間あたり500リットル以上の製造能力が必要です。RO膜+イオン交換樹脂の組み合わせが一般的です。

排水処理システムの設計も見落とせません。洗剤成分や繊維くずを含む排水は、下水道放流基準を満たすよう処理します。pH調整槽やろ過設備の設置により、環境負荷を最小化します。

配管材質は内製化の品質を左右します。給水管には316Lステンレス鋼を使用し、デッドレッグ(滞留部)を作らない設計にします。定期的な配管洗浄とサニテーション実施により、微生物汚染を防止します。


GMP対応の洗浄バリデーション手順

洗濯プロセスのバリデーションは、品質保証の根幹です。「この洗浄方法で確実に衛生基準を達成できる」ことを科学的に証明する必要があります。

バリデーションの3段階アプローチ

設計時適格性評価(DQ)では、設備仕様と要求事項の整合性を確認します。洗濯機の機能仕様書、配管図、制御システムの設計書類を精査します。製薬用途に必要な機能が実装されているかをチェックリスト化し、文書で残します。

据付時適格性評価(IQ)で、実際の設置状態を検証します。電源容量、給排水接続、安全装置の動作確認を実施します。校正証明書付きの温度計や圧力計を用いて、計測機器の精度を確認します。

運転時適格性評価(OQ)では、各洗浄プログラムのパラメータが設定通り動作することを確認します。温度到達時間、すすぎ回数、脱水時間などを測定し、許容範囲内であることを記録します。

OQ試験項目例

  • 設定温度±2℃以内での安定性確認(30分間継続測定)
  • 洗剤自動投入量の精度検証(±5%以内)
  • すすぎ水の導電率測定(目標値以下を3回連続確認)
  • 脱水回転数と残留水分率の相関確認
  • 異常検知機能のテスト(温度異常、水位異常など)

稼働性能適格性評価(PQ)の実施

実際の無塵衣を用いた洗浄試験が中心となります。意図的に汚染させた試験衣類を洗浄し、除去率を測定します。発塵試験では、洗浄後の衣服から発生する粒子数を計測し、基準値以下であることを確認します。

微生物試験も重要な検証項目です。洗浄前後の生菌数を比較し、3log以上の減少(99.9%以上の除去)を達成目標とします。試験方法はJIS L 1902(繊維製品の抗菌性試験方法)に準拠します。

連続3ロット以上の試験で再現性を確認します。異なる作業者が実施しても同等の結果が得られることを示します。これにより、洗浄プロセスの頑健性を証明できます。

PQ試験データの記録項目

試験項目測定方法合格基準記録頻度
残留洗剤濃度分光光度法10ppm以下各ロット
発塵量パーティクルカウンタークラス別基準値以下各ロット
生菌数標準寒天培地法3log減以上各ロット
pH値pHメーター6.0〜8.0各ロット
外観検査目視確認汚れ・シミなし全数

定期的な再バリデーション計画も策定します。洗濯機のメンテナンス後、洗剤変更時、年次レビューで実施します。継続的な品質保証が、製造許可維持の前提条件です。


微生物管理と日常モニタリング

内製化後の品質維持には、日々の微生物管理が不可欠です。洗濯プロセス全体を通じた汚染制御と、定期的な確認作業により、安定した衛生状態を保ちます。

環境モニタリングプログラム

洗濯施設内の微生物レベルを定期的に測定します。浮遊菌測定では、エアサンプラーを用いて各区域の空気を採取し、標準寒天培地で培養します。クリーンルームクラスに応じた頻度で実施し、基準値超過時は原因調査を行います。

付着菌測定は、洗濯機内部や作業台の表面を対象とします。スタンプ寒天培地を押し当てる方法で、月1回以上のモニタリングを推奨します。特に洗濯槽のゴムパッキン部分は、バイオフィルム形成のリスクが高い箇所です。

純水の微生物管理も重要です。製造装置からの採水を週1回実施し、生菌数を確認します。超純水の場合は、TOC値のオンライン監視と組み合わせることで、水質変動を早期に検知できます。

環境モニタリング管理表

モニタリング項目測定頻度測定箇所アクションレベル
浮遊菌(落下菌法)週1回各区域中央クラス別基準の50%
付着菌(スタンプ法)月1回作業台、洗濯機内部10CFU/プレート
純水生菌数週1回製造装置出口10CFU/100mL
排水口付近週1回排水トラップ100CFU/mL

洗濯機の衛生管理手順

空運転での洗浄サイクルを定期的に実施します。80℃以上の熱水と除菌剤を使用し、洗濯槽内部を消毒します。週1回の頻度で行うことで、微生物の蓄積を防止できます。

洗剤ディスペンサーの清掃も見落とせません。洗剤残渣が固着すると、微生物の温床となります。分解可能な部品は毎日洗浄し、月1回は配管洗浄を実施します。

フィルター類の交換周期管理が重要です。糸くずフィルターは毎日点検し、詰まりがあれば即座に清掃します。排水フィルターは週1回の点検を基本とし、汚れの程度に応じて交換します。

作業者の衛生教育も品質管理の一環です。手洗い手順、作業着の着用方法、区域移動時のルールを標準作業手順書(SOP)で明確化します。定期的な教育訓練と理解度テストにより、ヒューマンエラーを最小化します。


運用マニュアル作成とコスト分析

内製化を成功させるには、明確な運用ルールと現実的なコスト計画が必要です。標準作業手順書の整備と、長期的な収支シミュレーションが、経営判断の根拠となります。

標準作業手順書(SOP)の構成

作業フロー図から始めます。衣服の回収、仕分け、洗濯、乾燥、検査、保管までの全工程を可視化します。各工程の所要時間と担当者を明記し、ボトルネックを特定しやすくします。

洗濯プログラム一覧表を作成します。クリーンルームクラス別、素材別に最適な洗浄条件を定義します。温度、時間、洗剤種類、すすぎ回数などを表形式でまとめ、現場で即座に参照できるようにします。

洗濯プログラム設定例

用途素材予洗い本洗いすすぎ脱水
クラス100用無塵衣ポリエステル常温5分60℃・20分純水×4回1200rpm・5分
クラス10,000用作業着ポリエステル混紡40℃・10分70℃・25分純水×3回1000rpm・8分
一般作業着綿混紡40℃・10分60℃・20分工業用水×2回800rpm・10分

異常時対応手順も重要です。洗濯機の故障、停電、水質異常など、想定されるトラブルへの対処法を記載します。代替手段の確保方法や、緊急連絡体制を明確にします。

記録様式を統一します。日報、月報、バリデーション記録など、必要な帳票類を整備します。電子記録システムを導入する場合は、データインテグリティの要件も考慮します。

初期投資と運営コストの試算

設備投資額を項目別に算出します。洗濯機本体、乾燥機、純水製造装置、空調設備、区域改修工事費を合計します。中規模工場(従業員100名程度)の場合、総額3,000〜5,000万円が目安となります。

初期投資の内訳例(従業員100名規模)

項目金額備考
業務用洗濯機(22kg×2台)800万円GMP対応機種
業務用乾燥機(30kg×2台)600万円大容量タイプ
純水製造装置500万円500L/h仕様
空調設備(HEPA付き)1,200万円区域別制御
施設改修工事800万円パススルー設置含む
その他(棚・カート等)100万円-
合計4,000万円-

年間運営コストは、人件費、水道光熱費、洗剤・消耗品費、保守点検費で構成されます。専任作業者2名体制の場合、人件費が最大の費目となります。

年間運営コスト試算

  • 人件費:600万円(2名、社会保険含む)
  • 水道光熱費:180万円(電気・ガス・水道)
  • 洗剤・消耗品:120万円
  • 設備保守点検:80万円
  • 環境モニタリング外部委託:40万円
  • 年間合計:1,020万円

外部委託との比較では、3〜5年で投資回収可能なケースが多く見られます。委託費が年間1,500万円の場合、年間480万円のコスト削減効果があり、初期投資4,000万円を約8年で回収できる計算です。

品質管理の向上という定性的効果も考慮すべきです。トレーサビリティの確保、緊急時の対応力向上、監査対応の容易さなど、数値化しにくいメリットが多数存在します。


よくある質問

Q1. クリーンルーム用ユニフォームの洗濯を内製化するメリットは何ですか?

品質管理の徹底とコスト削減が主なメリットです。洗浄プロセス全体を自社管理することで、GMPで求められるトレーサビリティを確保できます。外部委託費の削減効果も大きく、3〜5年で初期投資を回収できる事例が報告されています。緊急時の対応力向上や、監査対応の簡素化という副次的な利点もあります。

Q2. どのような設備投資が必要になりますか?

GMP対応の業務用洗濯機、大容量乾燥機、純水製造装置が基本です。中規模工場の場合、設備工事を入れてで1,500〜2,000万円、空調設備や施設改修を含めて総額3,000〜5,000万円が目安となります。段階的な導入も可能で、まず中型機1台から始め、需要に応じて拡張する方法も検討できます。

Q3. バリデーションはどのように実施すればよいですか?

DQ、IQ、OQ、PQの4段階で進めます。設計時の仕様確認から始まり、据付後の動作確認、実際の洗浄試験まで体系的に実施します。特にPQでは、発塵試験や微生物試験により、洗浄効果を科学的に証明します。連続3ロット以上で再現性を確認し、文書化することがポイントです。

Q4. 日常的な品質管理はどう行いますか?

環境モニタリングと設備の定期清掃が中心です。週1回の浮遊菌測定、月1回の付着菌測定により、微生物レベルを監視します。洗濯機の空運転洗浄を週1回実施し、内部の衛生状態を保ちます。純水の水質チェックや、フィルター類の点検・交換も重要な日常業務です。

Q5. 外部委託と比べて本当にコスト削減できますか?

工場規模と委託費によりますが、多くの場合で削減効果があります。年間委託費1,500万円の工場が内製化した場合、運営コスト約1,000万円で年間500万円の削減が見込めます。初期投資4,000万円を8年程度で回収できる計算です。品質管理の向上という定性的価値も含めると、投資効果はさらに高まります。

Q6. 既存施設に後から導入することは可能ですか?

可能です。既存の空きスペースを活用し、必要最小限の改修で導入した事例もあります。パススルー方式の採用や、コンパクトな中型機の選択により、設置面積を抑えられます。給排水設備の位置確認と、電気容量の増強が必要になる場合がありますが、専門業者との事前調査で対応可能です。


まとめ

クリーンルーム用ユニフォームの洗濯内製化は、製薬工場の品質管理を強化する有効な手段です。GMP基準に準拠した洗浄バリデーションを実施し、日常的な微生物管理を徹底することで、外部委託以上の衛生レベルを実現できます。

初期投資は3,000〜5,000万円が目安ですが、年間のコスト削減効果により、5〜8年程度で回収可能です。それ以上に重要なのは、トレーサビリティの確保と、品質管理の透明性向上という定性的なメリットです。

設備選定では、山本製作所、TOSEI、アイナックス稲本、エレクトロラックスなどの実績あるメーカーから、自社のニーズに合った機種を選択します。洗浄バリデーションの実施と、標準作業手順書の整備により、持続可能な運用体制を構築しましょう。

製薬工場の競争力強化と品質保証の観点から、クリーンルーム用ユニフォームの洗濯内製化は、今後ますます重要性を増していくでしょう。