企業内クリーニング事業で障がい者雇用促進を実現|特例子会社設立の成功事例とメリットを解説

障がい者雇用率の達成に頭を悩ませていませんか?法定雇用率の引き上げが続く中、「どんな職域なら障がいを持った方々が活躍できるのか」という課題に直面している企業は少なくありません。採用しても定着せず、雇用率だけを追いかける悪循環に陥っているケースも見られます。

近年、製造業や流通業を中心に、クリーニング事業を障がい者雇用の核として位置づける動きが加速しています。特例子会社の設立事例では、この分野での成功率が他業種と比較して顕著に高い傾向が報告されています。作業の特性と障害特性のマッチングが、持続可能な雇用を実現する鍵となっているのです。

従来の「とりあえず雇用する」方式では解決できない本質的な課題に向き合う時が来ました。大手企業の実践例では、クリーニング事業を基盤とした特例子会社で、定着率90%超を達成したケースも報告されています。障がい者と企業の双方にメリットをもたらす、新しい雇用モデルの可能性を、これから詳しく紐解いていきましょう。

この記事のポイント

  • 作業特性が障がい者雇用に最適な理由
  • 大手企業4社の具体的な導入事例
  • 企業側が得られる3つの経営メリット
  • 働く側の精神的負担を軽減する仕組み
  • 特例子会社設立から運用までの実践ステップ

障がい者雇用の現状と企業が抱える課題

法定雇用率の段階的引き上げにより、多くの企業が新たな対応を迫られています。2024年度には2.5%、2026年度には2.7%へと上昇予定。この数字は、従業員100名の企業なら3名以上の障害者雇用が必要となることを意味します。

職域開発の壁が立ちはだかる

雇用率達成のために採用しても、適切な業務が見つからないというジレンマが存在します。ある製造業の人事担当者は「事務作業での採用を試みたが、電話対応や突発的な業務変更に対応できず、3ヶ月で離職された」と語ります。

専門職や高度な判断を要する業務が中心の企業では、障害特性に配慮した職域を新たに創出する必要があります。しかし、既存業務の切り出しだけでは限界があり、本質的な解決には至らないケースが多いのです。

定着率の低さが経営課題に

採用後の定着率が30%を下回る企業も珍しくありません。障害者本人と業務内容のミスマッチが主な原因です。「やりがいを感じられない」「作業指示が複雑で理解できない」という声が、離職理由の上位を占めています。

中途採用コストの増大も見過ごせません。採用から教育、再び離職までのサイクルが繰り返されると、1名あたり年間120万円以上の損失が発生するという試算もあります。この悪循環を断ち切る抜本的な対策が求められているのです。

なぜクリーニング事業が障がい者雇用に適しているのか

定型的な作業工程と明確な手順が、この分野の最大の特徴です。複雑な判断や臨機応変な対応を必要としない点が、多くの障害特性とマッチします。

工程分解による作業の単純化

「選別」「投入」「乾燥」「プレス」「たたみ」「仕分け」という一連の流れを、細かく分割できる構造が強みです。ある特例子会社では、洗濯工程を12のステップに分け、それぞれに専任担当者を配置しています。

各工程がマニュアル化しやすい点も見逃せません。写真付きの手順書を用意すれば、文字の読み書きが苦手な方でも理解可能です。「タオルを3回折る」「ハンガーに袖を通す」といった具体的な指示が、作業品質の安定化につながります。

繰り返し作業が中心となるため、習熟度が向上しやすい環境が整います。知的障がいのある従業員が、3ヶ月で一般従業員と同等の処理スピードを達成した事例も報告されています。

対人ストレスを最小化する環境

製造工場内での作業が中心となるため、電話対応や来客対応の機会がほぼありません。精神障害や発達障害のある方にとって、予測不可能な対人場面が少ない点が大きなメリットとなります。

ある𠮷野家グループの特例子会社では、従業員の80%が精神・発達障害の診断を受けていますが、定着率は93%を維持しています。「1日のスケジュールが明確で安心できる」という従業員の声が、その理由を物語ります。

大手企業が実践するクリーニング事業の導入事例

実際の運用モデルを知ることが、自社への導入検討の第一歩です。業種の異なる4社の取り組みから、成功要因を読み解きます。

伊藤忠商事グループ|グループ外受注で事業拡大

特例子会社として設立されたクリーニング事業部門では、当初はグループ内の作業服やユニフォームの処理から開始しました。安定した業務量を確保できる点が、立ち上げ期の運営を支えています。

軌道に乗った後は外部企業からの受注も積極的に展開。現在では売上の40%が外部顧客からという、自立採算型の事業モデルを確立しています。障害者雇用を目的とした組織が、収益部門として機能している点が特徴的です。

洗濯物の仕分け作業では、色分けされたカゴを使用して視覚的に判断できる工夫を実施。機械操作補助では、ボタンの大きさや配置を工夫した専用インターフェースを導入しています。

𠮷野家ホールディングス|全国ネットワークの一元管理

全国3,000店舗超の従業員ユニフォームを、特例子会社が一手に請け負う体制が構築されています。回収から洗濯、仕上げ、配送準備までの全工程を、60名規模の障害者従業員が担当している点が驚異的です。

作業場には「月曜日は関東エリア」「火曜日は関西エリア」といった曜日別の処理スケジュールが明示されています。ルーティン化された業務フローが、従業員の精神的安定につながっているのです。

「ユニフォームの品質が向上した」という現場店舗からのフィードバックも寄せられています。丁寧な仕上げ作業が、店舗従業員の満足度向上にも貢献する好循環が生まれています。

参天製薬グループ|特殊クリーニングで専門性を確立

医薬品製造に使用する特殊な作業服やクリーンルーム用ウェアのクリーニングを、特例子会社が専門的に手がけています。高度な清浄度が要求される分野での実績が、事業の信頼性を高めています。

リネン類の取り扱いでは、素材ごとに異なる洗浄プログラムをマニュアル化および自動化を実現しています。「ポリエステル製は水温40度」「綿100%は水温60度」といった明確な基準が、品質の均一化を実現しています。

特殊な洗濯作業では、洗剤の計量や投入タイミングをデジタル表示で確認できる設備を導入。視覚的なサポートにより、精密な作業を障害者従業員が担える環境を整備しています。

製造業・病院関連|地域密着型の展開

病院の寝具や白衣を専門に扱うクリーニング事業では、衛生管理の高さが求められます。特例子会社の多くが「医療関連サービスマーク」を取得し、専門性をアピールしています。

機械へのシーツ投入作業では、大型の投入口と軽量なシーツの組み合わせにより、身体的負担を最小化。乾燥後のタオルたたみでは、自動折りたたみ機のサポートにより、1時間あたり200枚の処理能力を実現しています。

検品作業では、破れや汚れを見つける視覚的な確認が中心となります。集中力を活かせる業務として、自閉スペクトラム症のある従業員が高い成果を上げている事例が報告されています。

企業グループ名事業内容の概要障害者が行う主な業務雇用規模
伊藤忠商事グループ内外のクリーニング全般仕分け、たたみ、機械操作補助約40名
𠮷野家HD全国店舗ユニフォーム専門回収、洗濯、仕上げ、配送準備約60名
参天製薬特殊クリーニング・リネン特殊素材の取り扱い、洗濯作業約30名
製造業・病院医療用リネン・白衣専門シーツ投入、タオルたたみ、検品施設により10〜50名

企業が得られる3つの具体的メリット

経営視点での導入効果を、数値とともに検証します。障害者雇用という社会的責任と、事業としての合理性が両立する構造が明らかになります。

コスト削減と雇用率達成の同時実現

外部クリーニング業者への委託費用を内製化することで、年間15〜20%のコスト削減を達成した企業が複数存在します。従業員300名規模の製造業では、年間480万円の経費圧縮に成功しています。

特例子会社制度を活用すれば、親会社とグループ企業全体で雇用率を算定可能です。100名規模の特例子会社を設立することで、グループ全体の法定雇用率クリアに大きく貢献します。

納付金制度の負担軽減効果も見逃せません。法定雇用率未達成の場合、不足1名につき月額5万円の納付金が発生しますが、クリーニング事業での雇用創出により、この負担を回避できます。

安定した業務量で運営基盤を確保

自社の作業服やユニフォームを内製化することで、季節や景気に左右されにくい安定需要が生まれます。ホテル業では客室リネン、製造業では作業服と、業種ごとに必ず発生する洗濯需要が基盤となります。

月間処理量が予測可能なため、人員配置や設備投資の計画が立てやすい点も利点です。ある食品製造業では、週5日稼働で月間6トンの処理を継続し、従業員20名の雇用を5年間維持しています。

「仕事がない日」が発生しにくい構造が、障がい者従業員の雇用安定につながります。定期的な収入を得られる環境が、従業員の定着率向上に寄与しているのです。

企業イメージ向上とCSR効果

障がい者雇用への真摯な取り組みが、企業の社会的評価を高めます。特例子会社の設立は、採用活動や取引先への説明資料として有効に機能します。

ESG投資の観点からも、障がい者雇用の実績は重要な評価項目です。機関投資家向けのレポートで、クリーニング事業を通じた雇用創出の取り組みを紹介する企業が増えています。

従業員のモチベーション向上効果も報告されています。「自社が社会貢献している」という実感が、一般従業員の帰属意識を高めるという副次的メリットも存在します。

働く側が得られる3つの就労メリット

障がい者本人の視点から見た、この職域の価値を分析します。長期就労を実現する要因が、作業環境と業務特性に深く関連しています。

能力を発揮しやすい定型作業の安心感

同じ動作の繰り返しが中心となるため、一度覚えれば安定して作業できる点が大きな魅力です。知的障害のある従業員からは「毎日同じことをするから安心」という声が多く聞かれます。

集中力や正確性が評価される環境が、自己肯定感の向上につながります。「タオルをきれいに揃える」という明確な成果が目に見える形で残るため、達成感を得やすいのです。

作業スピードよりも丁寧さが重視される点も特徴的です。急がされることなく、自分のペースで質の高い仕事ができる環境が、精神的な負担を軽減しています。

対人コミュニケーションの負担軽減

電話対応や来客対応がほぼ存在しない点が、精神障害や発達障害のある方にとって大きなメリットとなります。予測不可能な人間関係のストレスから解放される環境が、安定就労を支えています。

作業場では決まったメンバーとの関わりが中心です。「毎日同じ人と仕事できる」という安心感が、職場への適応を促進します。

指示系統も明確化されています。「誰に何を聞けばいいか分かる」という構造が、コミュニケーション不安を軽減しているのです。

機械化による身体的負担への配慮

自動たたみ機や昇降式作業台など、重労働を軽減する設備投資が進んでいます。身体障害のある方でも、補助機器を活用して業務遂行が可能な環境が整備されています。

ある特例子会社では、車椅子利用者向けに高さ調整可能な仕分け台を導入。立ち作業が困難な従業員も、座位で効率的に業務を遂行できる環境を実現しています。

対象主なメリット具体的な効果
企業(雇用側)コスト削減外部委託費15〜20%削減、納付金負担回避
企業(雇用側)雇用率達成特例子会社制度でグループ全体の算定が可能
企業(雇用側)イメージ向上ESG評価向上、採用活動での訴求力強化
障害者(働く側)作業適性定型業務で能力発揮、自己肯定感の向上
障害者(働く側)ストレス軽減対人場面の少なさ、予測可能な業務フロー
障害者(働く側)身体負担軽減機械化・自動化設備による作業サポート

導入を成功させる5つの実践ステップ

理論だけでなく、実際の立ち上げプロセスを具体的に解説します。準備段階から運用開始までの道筋が明確になります。

ステップ1|自社の洗濯需要を数値化する

作業服やユニフォームの月間洗濯量を正確に把握することから始めます。従業員数×1人あたり週2回の交換と仮定すれば、概算が可能です。300名規模の企業なら、月間2,400枚程度の処理が必要となります。

現在の外部委託費用も詳細に分析しましょう。1枚あたり単価、回収頻度、配送料金などを含めた総コストを算出します。これが内製化の判断基準となります。

将来的な需要拡大の可能性も検討項目です。グループ企業や取引先への展開を視野に入れることで、設備投資の規模感が見えてきます。

ステップ2|業務用洗濯機と設備を選定する

中型機が主流のクリーニング業では、山本製作所やTOSEI、アサヒ製作所などが実績豊富です。処理能力と予算のバランスを考慮し、段階的な拡張が可能な機種を選びます。

省スペース設計の重要性も見逃せません。65坪程度の敷地で1日1.5〜2トンの処理能力を実現できる設備配置が理想的です。既存の倉庫や空きスペースを活用できれば、初期投資を大幅に圧縮できます。

自動化機器の導入も検討に値します。自動たたみ機や仕分けコンベアなど、障害者が作業しやすい設備への投資が、長期的な運営効率を高めます。

ステップ3|作業マニュアルを写真付きで整備する

工程を12〜15のステップに細分化し、それぞれに明確な手順書を作成します。「タオルを受け取る」「3回折る」「カゴに入れる」といった、1アクションごとの指示が効果的です。

写真やイラストを多用した視覚的なマニュアルが、理解度を高めます。文字だけの説明では伝わりにくい内容も、画像があれば直感的に把握できるのです。

作業時間の目安も記載しましょう。「1枚あたり15秒」といった基準があれば、自分のペースを確認しながら作業できます。

ステップ4|特例子会社設立を視野に入れる

従業員20名以上、障がい者雇用率20%以上などの要件を満たせば、特例子会社として認定されます。税制優遇や助成金制度の活用により、初期投資の負担を軽減できます。

設立には親会社の全額出資または50%超の出資が必要です。法人格の取得、事業計画の策定、ハローワークへの届出など、約6ヶ月の準備期間を見込みます。

社会保険労務士や障害者雇用支援センターとの連携が、スムーズな設立につながります。専門家のアドバイスを受けながら進めることで、認定の確実性が高まります。

ステップ5|定着支援の仕組みを構築する

ジョブコーチの配置や定期面談の実施など、継続的なサポート体制が不可欠です。月1回の個別面談で困りごとを聞き取り、早期に対処する仕組みが定着率を高めます。

職場適応援助者(ジョブコーチ)の活用も有効です。外部の専門家が定期的に訪問し、作業環境の改善提案や従業員へのアドバイスを行います。

キャリアアップの道筋を示すことも重要です。「半年後にはこの作業を任せる」といった具体的な目標設定が、モチベーション維持につながります。

よくある質問と実務的な回答

導入検討時に浮かぶ疑問に、実例をもとに答えます。現場の声が、判断材料を提供します。

Q1. 企業内クリーニング事業の初期費用はどれくらいかかりますか?

中型機を中心とした設備投資では、洗濯機5台、乾燥機3台、仕上げ設備一式で約3,000万円が目安となります。これに建物改修費や給排水設備工事を含めると、5,000万円前後の初期投資が一般的です。

ただし、既存の倉庫や空きスペースを活用できれば、建物関連費用を大幅に削減できます。段階的な設備導入により、初年度は2,000万円程度から開始した事例もあります。

特例子会社設立に伴う助成金制度の活用も検討に値します。障害者作業施設設置等助成金では、設備費用の最大2/3(上限4,500万円)が支給される可能性があります。

Q2. どのような障害特性の方が活躍できますか?

知的障害のある方は、繰り返し作業での高い集中力を発揮します。タオルたたみや仕分け作業で、一般従業員と同等以上の品質を実現している事例が多数あります。

精神障害や発達障害のある方は、ルーティン化された業務環境で安定して就労できます。対人ストレスが少ない点が、長期就労につながっています。

身体障害のある方も、車椅子対応の作業台や補助機器があれば活躍可能です。下肢に障害がある従業員が、座位での検品作業を担当している事例があります。

Q3. 特例子会社を設立しなくても導入できますか?

本体企業での直接雇用も十分に可能です。特例子会社化しない場合でも、クリーニング部門を社内に設置し、障害者を配属する形態が取れます。

ただし、税制優遇や助成金の面では特例子会社の方が有利です。雇用規模が20名以上になる見込みなら、特例子会社化を検討する価値があります。

グループ企業が複数ある場合、特例子会社での一元管理により、雇用率算定のメリットが大きくなります。自社の組織構造に応じた選択が重要です。

Q4. 外部からの受注も可能ですか?

軌道に乗った後、余剰処理能力を活用して外部受注を開始した事例が複数あります。近隣の中小企業や飲食店チェーンなどが主な顧客となります。

ただし、受注拡大には品質管理体制の強化が不可欠です。医療関連サービスマークなどの認証取得により、信頼性をアピールできます。

営業活動や契約管理には、一般従業員の配置が必要です。障がい者従業員は製造部門に専念し、営業や管理業務は別チームが担当する体制が一般的です。

Q5. 導入後のサポート体制はどう整えるべきですか?

ジョブコーチや障害者職業センターとの連携が基本となります。定期的な巡回指導により、作業環境の改善点を専門家の視点で指摘してもらえます。

社内にも障害者雇用の理解を深めた管理者を配置しましょう。障害者職業生活相談員の資格取得者が1名以上いると、トラブル対応がスムーズになります。

定期的な面談と目標設定の仕組み化も重要です。3ヶ月ごとの振り返りと、次期目標の共有により、従業員の成長実感を育てることができます。

まとめ|障がい者雇用とビジネスを両立させる現実的な選択肢

クリーニング事業は、障がい者雇用における最も成功率の高い職域の一つです。作業の特性と障害特性が自然にマッチする構造が、企業と障害者の双方にメリットをもたらします。

大手企業の実践例が示すように、特例子会社としての運営は十分に採算が取れる事業モデルです。外部委託費の削減効果と、雇用率達成による納付金回避を合わせれば、3〜4年での投資回収も現実的な数字となります。

重要なのは、単なる雇用率達成の手段ではなく、持続可能な雇用創出の仕組みとして捉えることです。丁寧な作業マニュアル整備と、継続的な定着支援により、障がい者が長期的に活躍できる職場が実現します。

まずは自社のクリーニング需要を数値化し、内製化の可能性を検討することから始めましょう。障がい者雇用の課題解決と、事業としての合理性を両立させる新たな選択肢が、ここにあります。

次のステップ: 障がい者雇用の職域開発でお悩みの人事・CSR担当者の方は、厚生労働省の障害者雇用支援センターや、都道府県の障がい者職業センターへの相談をご検討ください。先行事例の詳細情報や、助成金制度の最新情報を得ることができます。